2012年8月24日金曜日

いちご同盟(純愛--中学編)よりドッグイヤー

アチキが図書館の本を借りずにブックオフを利用している大きな理由がドッグイヤー。
借り物の本にページは折り曲げられません。で、折り曲げたもののまとめることなく今日まで生きてきましたので、今日からは読了した本のドッグイヤー部分をblogに残そうという試み。多読でないだけにさして苦にもならんでしょう。

思秋期を迎えてから三田 誠広氏の「僕って何」を読む。ドッグイヤーなし。
タイトルからして読む気が失せ、今まで一度も氏の作品を読まずに今日にいたる。
今の気分がタイトルなだけにいいんでないかい? 
CLさんでさえDTP業界から離れることとなった衝撃はかなり大きい。今の自分ではとてもとても(ry

「コピーの三田」の御曹司であることは知っていたが、自分と同じ誕生日だとは知らなんだ。

読んでいてリズム感が一致するためか、さらりと読める。このリズム感というのが結構、自分にとっては重要でリズム感が合わないと最後まで読了することができない。宮部みゆき作品はその筆頭。テレビドラマで見ると面白いだけに何なんだろうね?

いちご同盟純愛--中学編)

直美が、ぼくの方に振り向いた。
「ねえ、北沢くん」
ぼくは黙って、直美の目を見返した。
「ピアノの弾いていて、苦しいと思うことある?」
思いがけない質問だった。ぼくは少し考えてから、正直に答えた。
「ふつうに弾いていれば、いい気分だけどね。もっとうまくなりたいと思うと苦しくなる」
直美は探るように、ぼくの顔を見ていた。
「あなたよりも上手な人がいるっていうこと?」
「それもあるけどね。でも、もっと基本的なことなんだ。楽譜があれば、そこからいろんな音のイメージが浮かぶ。せっかくイメージが浮かんでいるのに、自分の指の動きが正確にそのイメージを表現できないとしたら、もどかしい気持ちになる」
(略)
つまり、こういうことだ。人生というものに関して、ぼくは三つほど、疑問があった。第一は、ピアノを弾くのは好きだけれど、いまのぼくの技量では、とてもピアニストなんかにはなれそうもないということ。第二は、たとえピアニストになったとしても、それが仕事になってしまうと、いい気分でピアノが弾けなくなるのではないかということ。そしてもう一つ、ものすごい苦労をして、有名なピアニストになったとしても、死んでしまえば、それでおしまいではないかということ。
p73-74より

「入院、というのもリストに入れといて」
そう言ったあとで、直美は急に声をふるわせた。
「でも、病気じゃない人には、わからないわね。あたしに与えられたリストは、病気、病気、病気、これだけ。自殺する権利もないのよ。だって、自殺したって、病気のせいだと言われるでしょ。自殺って元気な人がやらないと、誰も驚かないものね」
p117-118より

十五番目のソナタ『田園』。何の感動もない曲だ。
(略)
初見の時から、気持ちが乗らなかった。もちらん、指の運動みたいな練習曲でも、勝手に強弱をつけて、盛り上げることはできる。でも、母が聴いたら、卒倒するだろう。母はテンポに厳格で、勝手な解釈を許さない。感情を抑制した、機械みたいな演奏を好む。
p172より

「良一。お前にもいつか、わかるだろうがな。長く生きていると、大切な人間が、次々に死んでいく。それは、仕方のないことなんだ」
足をすべらせたのか、父はぼくの身体に抱きつくようにして言った。
「そしてな、良一。大人になり、中年になるにつれて、夢が、一つ一つ、消えていく。人間は、そのことにも耐えなければならないんだ」
p215より

「北沢。おれは、自分が怖い」
いまにも泣きだしそうな表情で、徹也はささやいた。
「おれの体内には、おやじの血が流れている。軽薄で多情な血だ。いまは、直美のことしか考えていない。だが何年かたてば、直美のことなど忘れて、別な女を追いかけているかもしれない。おれはそういう自分が怖い…」
p229より

そうだ十五番のソナタがいい…。
『田園』と呼ばれる、ひたすら穏やかで何の感動もない、音による風景画。課題なので毎日練習しているけれど、どうにも好きになれなかったこの曲が、いまの自分にもっともふさわしい曲だという気がした。
(略)
感情を抑制していたはずなのに、いつの間にか、涙が頬を伝わっていた。
雨量計に降り注いだ雨のしずくが、やがてガラスびんを満たすように、胸の中で何かがあふれそうになっていた。あふれそうになっているものを抑えて、ひたすら単調に、鍵盤を叩いた。ことさらに声を高める必要はなかった。むしろメトロノームのような音の一つ一つに、悲しみがこめられていた。音が響くだけで、心がふるえた。
不思議な気がした。こんな演奏は初めてだった。ふつうに弾いているだけなのに、音の響きに、深いものがこもっている。何げなく弾いていたメロディーや和音が、別の音のように聞こえる。わざと抑揚をつけ、テンポを崩して、感情をこめようとしていたいままでの自分の演奏が恥ずかしかった。
この曲の深さに、気づかなかった。
(略)
弦の響きの背後から別の何かが響いてきた。半ば消え入ろうとしている、かぼそい、けれども持続的な低いリズムだ。どこかで聞いたことのある響きだった。まるで心臓の鼓動のような、胸の奥にじわりとくいこむリズム。けっして乱れない規則的なテンポの中に、激しいものがこめられている。命の鼓動だ、とぼくは思った。単調で変化がないからこそ、生きていると実感できるような、そんな命のリズムを、この曲はとらえているのだ。
(略)
鍵盤から手を離して、目を上げると、レッスン室のドアが半ば開き、母が立っているのが見えた。母は、ひどく驚いた顔つきで、ぼくを見ていた。部屋に入りかけたまま、その場で動けなくなったようだった。
ぼくは椅子から立ち上がり、母に向かって、目で合図を送った。母はまだ、驚きがおさまらない様子で、ぼくの顔を、息もつかずにじっと見つめていた。
p232-233より


コメントなり感想を入れたいけど面倒なので省くw
人によりドッグイヤーする部分が違うと思うので、このblogはこれでありかな?とも思う。


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